• アンヴァンテール

ヒビノコト5

昨晩、ぼやけていた被写体に急にピントがあったかのように思い出しました。あの蝋燭の火を消した後に立ち込める、夜の仄かな煙の香りは、夏の終わりの香りでした。夏休みの終わりの、夜の庭での花火。幼い私と弟、傍には両親がいて、庭には大きな銀木犀の木があり、一番太い枝から父が作ったブランコが吊り下がっていました。そのブランコの傍に私は蹲り、最後の線香花火が、手のひらの下で小さな小さな打ち上げ花火のように閃めいて、閃光が消えると、ジジジジと丸い火の玉になり、まわりは暗闇と静寂と仄かな煙の香りに包まれていました。あの夏の終わりの夜の香りでした。